孤独のカレー
我が家のカレーは孤独のカレーである。
わたしは辛いものが苦手なのである。だからカレーもなるべく甘口がいい。お子様用カレーくらいが丁度いい。なのに、わたし以外の家族は辛いカレーが好きなのである。現在少数派となって劣勢のわたしは、中辛カレーに耐えねばならぬ。
けしてカレーという食べ物が嫌いなわけではない。味は好きなのだ。
そう、味は。味というものが感じられるうちは。
辛いものが苦手なわたしは、辛味という「味」が苦手なのではない。辛いと「味」がわからなくなるから苦手なのだ。唐辛子の辛味で口内や舌がヒリヒリと痛み、その後食べるものの味がわからなくなり、ほとんど痛みに耐えながらものを食べなくてはならなくなるのが苦痛なのだ。
これを家族には何度も説明し話したのだが、それでも容赦なく我が家のカレーは中辛である。だが、カレーが好きな幼い親族がうちに来るときだけは、甘口のカレーを特別に用意する。
家族は中辛のカレーを「たいして辛くない」「もっと辛くてもいいくらいだ」と言う。こっちは中辛のカレーで譲歩してやってるんだぞ、という意味だろうか。それでもわたしの舌には苦痛だと、何度も説明してあるというのに。
食べ物を粗末にしたり、文句を言うのはよくないことだと思っている。だから我慢してでもわたしは中辛カレーを食す。味や具材に不満を抱いたこともない。ただ、辛いのはしんどいと訴えつづけている。
今日の夕食時、昨日訪れた親族が残したお子様用甘口カレーを、家族の一人がガラムマサラをどぱどぱかけて食っていた。それを眺めるわたしは、なぜか虚しい気分になっていた。