後悔記

今のところ、宛てのないブログです。

シンゲンランペキ

 えー、本日は、昨日の読解力云々の記事に入れようかと思っていたけれど入らなかった、お粗末なネタを一つ。

 

 わたしは趣味で電子ノベルを作っていたことがあったんですね。ノベルゲームみたいな感じで読む小説ですね。自分で小説を書くわけではなくて、制作ツールを弄って遊んでたんですね。で、せっかくだから、読もう読もうと思っていたけれど読んだことのない有名作品で作ってみようと思ったんですね。ツールの手習いにもなるし、未読作品も読めるし、一石二鳥やんと。

 そこで手を出したのが、泉鏡花の『海神別荘』でした。で、その冒頭にいきなりこんな文があるわけですわ。

森厳藍碧なる琅玕殿裡

 どうでしょう。読めますかね。意味分かりますかね。わたしは無理でした。

 しまったな、と思いました。もともと泉鏡花ってハードル高いイメージあったけど、自分にはとくに向いていないかもしれないぞと思いました。読んでても公子にムカムカしてきましたしね。まあそれは関係ないんですけど。作品によってもムカムカしたりしなかったりすることはあるので、合うとか合わないとか一作では判断できませんしね。まあ関係ないんですけど。

 で、これは『シンゲンランペキなるロウカンデンリ』と読むわけです。

 今回読み直すまで、わたしの記憶の中ではなぜか『シンランゲンペキ』となっていました。ダメですね。さすがに冒頭からつまずいて諦めるのも恥ずかしいので、当時、意味は調べたんですけどね。記憶に残ってないんじゃしょうがないですね、はい。 

 

 『森厳藍碧』も『琅玕殿裡』も、まず日常ではまずお目にかからない言葉ですね。かろうじて見たことがあり、イメージが浮かんだのは『殿裡』くらいでしたね。なんつーか、漢語教養でぶっ叩かれている気がしますね。まあ大正のお話ですからね。知識人レベルというものが違う気がします。しょぼーん。

 

 しかし、意味がわからなくても、この文章はなんとなく「『琅玕殿裡』が『森厳藍碧』なんだなぁ」とは、ぼんやり読めるんですね。『なる(断定の助動詞)』で繋がれていることによって、日本語として『形容詞+名詞』であることはわかる。まあこれは後付けの理屈で、形容詞、助動詞、名詞、という概念を理解していなくても感覚的にわかるんですよ。

 文章読解って、この感覚に頼っているところが大きいんですよね。よく言われることだけど、「読める=わかる」わけではない、という。むしろ、すべてを理解しようと努めながら文章読んでいたら、いつまでたっても読み終わらないわけですよ。なんとなくフィーリングでわかったような気になって読み流す、ということができるから読み通すことが可能になるわけで。

 だから昨日の記事の『短文も理解困難』て見出しにちょっと引っかかったんですね。確実に読み解こうとしたら、短文だって難しいこと普通にありますからね。むしろ情報が少ない分、誤読しやすくなる可能性だってありますよね。

 

 で、単語の意味は、わからなかったら調べることになるわけです。ネットでもいいし、紙でもいいし。

 まずは『森厳藍碧』からいきましょうか。『森/厳藍碧』『森厳/藍碧』『森厳藍/碧』……。どこで区切ればいいのか迷ったら、四字をそのまま検索窓にぶち込めばいいんですよね。辞書なら『シンゲン……』で捲ればいいんですしね。まあ『森厳/藍碧』なんですけどね。

 

森厳(しんげん)  きわめて厳粛でおごそかなさま。

藍碧(らんぺき)  青みの強い緑色。

琅玕(ろうかん)  ①美しい玉。硬玉・軟玉などの宝石。
          ②美しい竹。
          ③美しい文章。佳文。

 手っ取り早く http://www.weblio.jp/ で調べた結果です。これだけだと手っ取り早すぎる気もしたので、手元にある辞書でも調べてみました。

 

森厳   身の引きしまるような、おごそかなようす。

琅玕   碧玉(へきぎょく)に似た美しい鉱石。中国でとれる。

 

三省堂国語辞典第三版 

 えー、わたしの持っている一番古い辞典で、なんか表紙がねっちょりしています。あまり触りたくありません。ちなみに『藍碧』は載ってませんでした。

 ここで『琅玕』のイメージがより具体的になったけど、一応『碧玉』も引いてみますよ。

碧玉  ①みどりいろの宝石。

    ②不純物のため、すきとおっていない石英。色は緑・赤など。

 

 念のため、手元にあったもう一冊の辞典でも引いてみますかね。

森厳   思わず襟を正すほど荘厳な様子。

藍碧   あいのように濃い青色。あおみどり。

琅玕   暗い緑色(青みがかった緑色)で半透明の美しい宝石。

     〔中国では、特に翡翠を指す〕

 

新明解国語辞典第五版

 はい、『藍碧』がありました。まあ、漢字そのままの意味なんですけど。

 ここで意外に『琅玕』の意味が広がってきました。weblio では色情報もなかったのに、翡翠の可能性まででてきた。こういうことがあるから読解に悩んじゃうんですよね。

 

 で、次は『殿裡』ですね。実は『殿裡』って言葉は調べてもまったく出てこないんですね。 つまり『殿』『裡』と調べるしかわけですね。まあこれもフィーリングでわかるっちゃわかる気もするんですけど、一応。

 

殿   貴人の邸宅。御殿。(岩波古語辞典)

    身分のある人の住む、広い家。(三省堂国語辞典第三版 )

    大きくて立派な建物。(新明解国語辞典第五版)

 ちなみに、岩波古語と三省堂は『との』、新明解は『でん』で建物としての説明がありました。……ぐわー、めんどうくさくなってきた。

 次は『裡』です。これでラストだ。さっくりいこう。

 『裡』は「裏」の異体字。わざわざ辞書引用するのももうアレなので言うと、物の内側を指します。そうすると『殿裏』はつまり御殿の中て意味ですね。

 

 はい、これで『森厳藍碧なる琅玕殿裡』のイメージが頭に浮かびやすくなりましたね。

 

 え? こんなに長々と当たり前のことを書いて何を伝えたかったのかって?

 それはね、いい歳して超有名作品の十文字を読解するのだって、けっこう大変なんだぞ! てことが言いたかっただけなのです。