後悔記

今のところ、宛てのないブログです。

試食したチョコは美味かった

今週のお題「バレンタインデー」

 新しい本屋文具屋開拓として、数年ぶりに、ある駅前へと訪れた。調べると、そこへ至るルートは二つあったので、行きと帰りで試してみた。行きのルートAは、バス代を節約するため徒歩二五分ほどかけて駅へ行き、電車で一〇分、乗り換えて五分、ただし乗り換えの待ち時間に一〇分ほど待ち、合計で五〇分。帰りのルートBは、乗り換えなしで電車約二〇分、バスで二〇分、合計四〇分。バスの時間の誤差を考えても、AとBでさほど違いはないことはなかった。交通費もほぼ同じである。バス代を節約して歩いた分、ルートAの方がちょっと面倒なので、結果としてはルートBが楽でいいなという結論になった。

 そこへ訪れた目的は、主に本屋と文具屋と映画館の場所を確認し、なんなら欲しかった本もまとめ買いしようかなという予定だった。そのはずだった。

 わたしは最初に駅ビル直結の商業施設に入り、そこの文具売り場を覗いた。目当ての店ではなかったが、本屋もあったので一応覗いてみた。併設のカフェは、人で一杯だった。というか、どこの売り場に行っても、各階の飲食店を覗いても、人が多い。

 賑わっている。栄えている。それに、売っている服もなんか、お洒落である。お洒落に興味のない私の目から見ても、お洒落であることがわかるくらいには。

 映画館の場所も無事にみつかり、次にわたしは目当ての本屋に行こうとした。だが、その商業施設の構造が不慣れでわかりにくいこともあって、適当に歩いているうちに、洋菓子売り場が目に入ってきた。

 そう、今日はバレンタインデーなのである。ちょっと寄って見ていくかな、と好奇心が湧いた。栄えて賑わっている店の売り場なら、きっと華やかに違いないと期待した。

 はたして、そこにはあった。とりあえず名前だけは聞いたことあるぞ、みたいなやつから、いやまったく知らんけどなんか王室御用達のショコラとか? みたいなのが。お高いチョコが、ゴロゴロしていた。試食もやっていたので、少し食べさせてもらったのだが、「うげっ、なんじゃこら美味ぇ!」と衝撃を受けた。

 爪楊枝の先に刺さった、小指の先ほどの大きさのチョコレートは、たしかに今まで食べたことのあるチョコレートとは風味そのものが違っていた。そして、それがまた店によって、ちゃんと違うのである。同じチョコなのに。

 なるほど、なるほどこれが高級なショコラティエの味ってやつなのかよ、ちくしょう――と、わたしは未練がましくショーケースの中の値札を睨めつけた。味は確かに美味い。しかし高い。お高い。思いきって買えない値段でもないものの、口の中に放り込めばはかなく溶けて消える嗜好品に、その額を出すという経験がないので、ふんぎりがつかない。しかも、これだけ色々ある美味そうなチョコの中から、「これ」と何を選べばいいのかわからない。このブログでもしつこく吐いているが、わたしは決断ストレスにめっぽー弱い。

 ので、判断を放棄して、わたしはその華やかな、ある意味殺伐とした売り場を後にした。そうだ、わたしの今日の目的は本屋なのだ。本屋に行こう、そして余力があればまた帰りにここに寄って何か買えばいいじゃないか、と。

 だがわたしは、その後道に迷い、ぐるぐると三〇分ほど歩き回って時間を無駄にし(西口だと思い込んでたけど東口だった、みたいなミスで)、目当ての本屋にたどり着いたときはホッとしたが、ちょっと疲れていた。欲しかった本はすべてその本屋に並んでいたという充実っぷりに満足しながらも、なぜかわたしの心は暗く沈みはじめた。ふっ、と何もかもが、虚しくなった。

 本を買えば、また本が家に増える。収納場所もないのに。本を買って読んだからって、わたしの人生は変わらない。人生? 人生を変える幻想でも欲しいのかわたしは。それは逃避だ。何にもならない。虚しい……何もかもが……。

 そんな精神状態に陥って、結局何も買わずに店を出た。外はすっかり暗くなっており、無駄に歩き回った疲労もあってか、かすかな頭痛もしていた。

 今から考えると単純なことで、疲れて体力を消耗し気力を失っていたわたしは、買い物をするというエネルギーがそこで尽きていたのだ。途中、飲食店で一休みして、甘いものとカフェインでも摂取していれば違っていたかもしれないが、お高いチョコを買うなら、せめて外食費は節約したかった。

 そんなわけで、色々と細かなことが裏目に出た一日だった。このバレンタインデーの経験で、やはりほぼ初見の地での買い物は危険だと思い知ったのだった。

 まあ無駄遣いしなかったから、そんなにダメージはない。ただ疲れただけだ。